スクリューホームムーブメント
スクリューホームムーブメントとは膝を最大伸展する時に大腿骨に対して下腿が10°ほど外旋することをいいます。 それは大腿骨の内側の関節面がカーブしており、そこを下腿が通ることによって起こります。 また膝関節伸展に伴う前十字靭帯の緊張にも影響を受けます。
スクリューホームムーブメントで分かる疾患
大腿骨の膝蓋に面した外側隆起は、内側隆起と比較すると高く、幅広で、突出しています。
また、膝蓋骨が通る溝である顆間溝軸は、大腿骨骨幹部軸に対し外方へ約10°傾斜しています。顆間窩は、内側顆・外側顆を分けるとともに、膝前十字靱帯と後十字靱帯の通路を形成します。
脛骨大腿関節(FT関節)における膝伸展に伴う脛骨外旋運動はスクリューホーム運動(screw home movement)と呼ばれ、生理学的な回旋運動とされています。 スクリューホーム運動によってロックされた膝完全伸展位からの初期屈曲時には、下腿を内旋させることによって終末伸展が解除されます。これには膝窩筋の作用が重要とされています
スクリューホームムーブメントをするメリット
1-1.骨形態
膝関節は大腿骨と脛骨から構成されており、それぞれの関節面の形態がSHMに関係しています。
大腿骨の内側・外側顆は凸面の関節面を呈しています。脛骨の内側関節面は凹面の関節面、外側関節面は平坦、もしくは軽度凹面を呈しています。
脛骨内側関節面は凹面を呈しているので、大腿骨の内側顆がここにはまり込みます。そのため、内側関節面の動きは少ないです。
対照的に...
脛骨外側関節面は前額面では軽度凹状ですが、矢状面上で平坦もしくは凸状のため、内側関節面と比べ骨性の安定性が得られにくい形態です。
ここで一つ論文をご紹介したいと思います。SHMの論文では無いのですが、膝関節屈曲時の内外側関節面の動きを研究した報告になります。
こちらの図は脛骨関節面上の大腿骨の動きを表しています。膝関節屈曲-伸展時に外側関節面の前後の動きが大きい事がわかります。また、伸展時には大腿骨が内旋方向に動いていることがわかります¹⁾。
SHMは内側面のわずかな移動と外側面の前方移動が生じることで生じると考えることができます。
1-2.膝関節の靭帯の影響
膝関節には多くの靭帯が存在しています。その中で、SHMに関る靭帯は「前十字靭帯」「内側側副靭帯」の2つと考えています。
膝関節伸展時に大腿四頭筋が作用すると、脛骨は内旋方向に運動します。脛骨の内旋が生じると前十字靭帯に伸張力が加わります。この前十字靭帯に加わる伸張力を逃すために、下腿が外旋方向に運動していると考えています。
また、内側側副靭帯は膝関節伸展に伴い張力が増大しますが、外側側副靭帯の張力は増大しません。そのため、内側関節面は固定され動きは制限されますが、外側関節面は動きが制限されないため、下腿が外旋すると考えられます。
2.SHMが制限される理由
SHMが制限される理由として、「関節の変形」「半月板」「筋肉」の影響が考えられます。それぞれについて説明していきます!
2-1.関節変形の影響
関節の変形に伴うSHMが制限されることは想像に難しくないと思います。例えば、内側関節面の骨棘発生や関節裂隙の狭小化が生じると、正常な関節運動が障害されます。内側側副靭帯・前十字靭帯の弛緩が生じると、下腿の外旋誘導が生じなくなります。
変形性膝関節症における、回旋運動を評価した研究では、早期の膝関節変形においても回旋運動が減少していることが確認されており、変形が重度であるほど回旋運動の量が低下すると報告さています²⁾。
2₋2.半月板の影響
半月板は膝関節伸展に伴い前方に移動し、屈曲に伴い後方に移動します。下腿の回旋では、外旋に伴い内側半月板は後方へ、外側半月板は前方へ移動します(内旋の場合は逆に動きます)。
内側半月板について考えると膝関節伸展時には前方へ、下腿の外旋が生じると後方に動きが生じていることになります。膝関節伸展時、逆方向に動いていることにになりますが、内側半月板は内側側副靭帯と連続している、Cカーブが大きいため動きがそれほど大きくありません。そのため、膝関節伸展時に半月板の動きは相殺されているのではないかと考えています。
ですが、何らかの影響により内側半月板の動きが制限されると膝関節伸展制限が生じることも多く経験します。
上記の3つの原因により、疼痛による運動制限、半月板の動きが制限されていると評価・判断した場合、理学療法介入にて改善する場合があります。(評価・治療の項で詳しく解説します)
※半月板損傷や内側半月板後角損傷(MMPRT)があり、クリックや引っ掛かりがある場合、理学療法の適応が難しいと考えています。
外側半月板は膝関節伸展、下腿の外旋に伴い前方移動するため内側半月板よりも着目することが多いです。
外側半月板の前方移動を制限する因子として、膝蓋下脂肪体(IFP)、半膜様筋と膝窩筋が挙げられます。
IFPは膝蓋横靭帯を介して半月板と連続しています。そのため、IFPの動きが制限されると、半月板の動きも制限され、膝関節伸展制限に繋がる可能性があります。
詳しくはこちらをご覧ください!
半膜様筋と膝窩筋は外側半月板に連続している報告されています³⁾。
半膜様筋が短縮すると、膝関節伸展時に外側半月板の前方移動を制限する可能性があります。膝窩筋も同様です。
膝窩筋についてはこちらをご覧ください!
2-3.筋肉の影響
脛骨内側の前方移動を制限する半膜様筋・腓腹筋内側頭、脛骨外側の後方移動を制限する大腿二頭筋・腓腹筋外側頭、脛骨の外旋・前方引き出しを制限する鵞足筋群が挙げられます。
それぞれについて説明していきます!
2-3-1.半膜様筋・腓腹筋内側頭
半膜様筋は膝関節後方関節包に付着しており、腓腹筋内側頭は半膜様筋と交差しするように膝関節後面を走行します。
半膜様筋が短縮すると膝関節後方関節包の伸張制限が生じたり、腓腹筋内側頭と半膜様筋の動きが制限されると脛骨内側面の前方移動が制限され、膝関節伸展制限に関与します。
2-3-2.大腿二頭筋・腓腹筋外側頭
大腿二頭筋・腓腹筋外側頭も膝関節後方で交差するように走行します。この部分は脂肪体が多く存在しており、総腓骨神経も走行する部分です。各組織の柔らかさや動きが必要な部分と考えることができます。
つまり、大腿二頭筋・腓腹筋外側頭の動きが制限されてしまうと、脛骨外側面の後方移動が制限され、膝関節伸展制限に繋がる可能性があります。
鵞足筋群は縫工筋・薄筋・半腱様筋から構成されます。停止部は脛骨内側面で、膝関節屈曲と脛骨内旋の作用があります。
鵞足筋が短縮、鵞足包との癒着などが生じると、膝関節伸展と脛骨外旋が制限されることがわかります。
詳しくはこちらをご覧ください!。
3.SHMの制限に関与する組織の評価
SHMの制限に関与する組織として、骨・関節、靭帯、IFP、半月板、筋肉など多くの組織が存在しています。それぞれについて説明していきます。
セラピストが関節変形や靭帯の張力を改善させることは難しいので、評価は簡単に行います。関節変形はKL分類で評価し、靭帯(前十字靭帯・内側側副靭帯)は前方引き出し、外反ストレステストを行い、関節の不安定性がどの程度かを簡単に評価します。